福岡市南区大橋の司法書士が、遺産分割前に相続預金を引き出せる制度について解説するブログ記事のアイキャッチ画像。 画像上部には「福岡市南区大橋の司法書士が解説」とあり、中央に大きな文字で「遺産分割の前でも相続預金を引き出せる!」、その下に「民法909条の2(単独払い戻し制度)の計算方法と上限150万円のルール」と書かれている。 画像右下には、司法書士(スーツの男性)と相談者(夫婦)が机を挟んで相談しているイラストが描かれている。

福岡南高垣司法書士事務所(福岡市南区大橋)

相続が始まると、亡くなった方の銀行口座は実務上すぐに自由に使えなくなることが多く、「葬儀費用を払いたいのに預金を下ろせない」「生活費や医療費の支払いに困る」といった問題が起こります。

そのような場面で重要になるのが、民法909条の2で定められた遺産分割前の相続預金の払い戻し制度です。この制度を使うと、遺産分割協議が終わる前でも、相続人が単独で一定額まで預貯金の払い戻しを受けられる場合があります。

この記事では、福岡市南区大橋で相続手続きを日々サポートしている司法書士が、民法909条の2の意味、計算方法、150万円上限の考え方、必要書類、相続放棄との関係、遺言書がある場合の注意点まで、初めての方にもわかりやすく解説します。

目次

先に結論|民法909条の2を一言でいうと

民法909条の2とは、遺産分割が終わる前でも、各相続人が金融機関に対して単独で、一定範囲の預貯金の払い戻しを請求できる制度です。

特に、次のような場面で問題になります。

  • 葬儀費用をすぐに支払いたい
  • 当面の生活費が必要
  • 被相続人の入院費や施設費、債務の支払いが必要
  • 遺産分割協議がまだまとまっていない

ただし、誰でも自由に全額引き出せる制度ではありません。引き出せる金額には計算ルールがあり、さらに同一金融機関ごとに150万円の上限があります。

民法909条の2とは何か

遺産分割前でも相続預金を単独で払い戻せる制度

民法909条の2は、相続人の生活や支払いの必要に対応するために設けられた制度です。正式には、遺産分割前の預貯金債権の行使に関する規定であり、一定額に限って、他の相続人全員の同意がなくても払い戻しを受けられる仕組みになっています。

いつから使える制度なのか

この制度は、2018年(平成30年)の相続法改正で新設され、2019年7月1日から施行されました。

そのため、相続実務では比較的新しい制度ですが、現在では相続預金の初動対応として非常に重要な制度の一つになっています。

なぜ民法909条の2が必要になったのか

背景にある2016年の最高裁判例

2016年(平成28年)の最高裁判例により、共同相続された普通預金・通常貯金・定期貯金は、相続開始と同時に当然に法定相続分で分割されるものではなく、遺産分割の対象になると整理されました。

この判断により、実務上は、遺産分割が終わるまで相続人が単独で預金を動かしにくい状況がより明確になりました。

実務で起きた問題

法律上の整理としては合理的でも、現実には次のような問題が多く発生します。

  • 葬儀費用がすぐに必要になる
  • 残された家族の当面の生活費が足りない
  • 医療費や介護費、施設費などの清算が必要になる
  • 家賃や公共料金などの支払いが差し迫っている
  • 相続人同士の話し合いがすぐにはまとまらない

こうした事情に対応するため、遺産分割の公平を保ちながら、当面必要なお金を引き出せる制度として民法909条の2が設けられました。

民法909条の2で払い戻せる金額はいくらか

基本の計算式

単独で払い戻しを受けられる金額は、次の計算式で求めます。

相続開始時の預金残高 × 3分の1 × 請求する相続人の法定相続分

ただし、これで計算した金額をそのまま全額引き出せるとは限りません。同一金融機関ごとに150万円が上限です。

つまり、実際の上限はどう決まるのか

実際に引き出せる金額は、次のうち低い方です。

  1. 法定計算額:相続開始時の預金残高 × 3分の1 × 請求する相続人の法定相続分
  2. 150万円:同一金融機関ごとの上限額

民法909条の2の計算例

事例1|預金残高900万円、相続人が配偶者と子1人の場合

亡くなった方のB銀行の預金残高が900万円で、相続人が配偶者と長男の2人だったとします。この場合、長男の法定相続分は2分の1です。

900万円 × 3分の1 × 2分の1 = 150万円

この場合、計算結果がちょうど150万円なので、長男はB銀行から150万円まで払い戻しを受けられる可能性があります。

事例2|預金残高1,200万円の場合

同じく法定相続分が2分の1で、預金残高が1,200万円だった場合は次のようになります。

1,200万円 × 3分の1 × 2分の1 = 200万円

ただし、同一金融機関の上限は150万円なので、実際に引き出せるのは150万円までです。

事例3|複数の銀行に口座がある場合

B銀行に預金があり、さらにC銀行にも預金がある場合は、金融機関ごとに上限が判断されます。

そのため、要件を満たせば、B銀行で150万円、C銀行で150万円というように、銀行ごとに払い戻しを受けられる可能性があります。

民法909条の2で重要な「150万円上限」とは

150万円は口座ごとではなく金融機関ごと

ここは誤解されやすいポイントです。150万円の上限は、1口座ごとではなく、同一金融機関ごとに考えます。

たとえば、同じ銀行の本店口座と支店口座にそれぞれ預金があっても、別々に150万円ずつ引き出せるとは限りません。同じ銀行であれば全支店を通じて150万円が上限です。

定期預金や複数明細があっても注意

普通預金・定期預金など複数の預金があっても、同じ金融機関であれば最終的な上限は150万円です。計算の出発点は口座や明細単位で確認することがありますが、最後は金融機関単位の上限にかかると理解しておくとわかりやすいです。

遺産分割協議が終わっていなくても本当に引き出せるのか

はい、一定の範囲では可能です。

この制度の特徴は、他の相続人全員の同意や家庭裁判所の判断を経なくても、金融機関に対して直接請求できる点にあります。

ただし、実際には次の点に注意が必要です。

  • 法定相続人であることを確認できる書類が必要
  • 法定相続分が確認できることが必要
  • 金融機関ごとに必要書類や運用が異なることがある
  • 内容確認のため、当日すぐに現金化できるとは限らない

つまり、制度上は単独請求できても、実務では事前準備が非常に重要です。

引き出したお金は後の遺産分割でどう扱われるのか

民法909条の2で払い戻しを受けた預貯金は、後日の遺産分割において、その相続人が遺産の一部を取得したものとして扱われます。

簡単にいえば、後の遺産分割で「先に受け取った分」として調整される、ということです。

そのため、この制度は「勝手に多く取れる制度」ではなく、公平を維持しながら先に必要資金を動かせる制度と理解するのが正確です。

150万円では足りない場合はどうするか

家庭裁判所の手続を利用する方法がある

単独払い戻し制度だけでは足りない場合には、家庭裁判所の手続を利用する方法があります。代表的なのが、家事事件手続法200条3項に基づく預貯金債権の仮分割の仮処分です。

どんな場合に使うのか

たとえば次のような場合です。

  • 葬儀費用や医療費が高額
  • 施設費や介護費の清算が必要
  • 被相続人の債務返済が必要
  • 単独払い戻し制度の150万円では足りない

利用するためのポイント

この手続は、通常、遺産分割の調停または審判の申立てがあることが前提になります。そのうえで、預貯金を行使する必要性があり、かつ他の共同相続人の利益を害しないと判断されれば、家庭裁判所が仮の取得を認めることがあります。

相続放棄を考えている場合に民法909条の2を使ってよいか

非常に慎重に判断する必要がある

相続放棄を検討している場合、この制度の利用は特に慎重になるべきです。なぜなら、相続財産を処分したと評価されると、相続放棄ができなくなる可能性があるからです。

なぜ危険なのか

民法では、相続人が相続財産の全部または一部を処分したときは、単純承認したものとみなされる場合があります。そのため、相続預金を引き出して自分のために使ってしまうと、相続放棄との関係で大きな問題になるおそれがあります。

実務上の注意点

相続放棄を考えている場合は、次のような対応が重要です。

  • 制度を使う前に専門家へ相談する
  • 自己判断で生活費や私的支出に充てない
  • 支払いの必要性や使途を明確にする
  • 領収書や払込記録を必ず残す

「葬儀費用なら絶対に大丈夫」といった単純な話ではなく、個別事情で判断が分かれることがあるため、相続放棄を視野に入れている方は特に注意してください。

→ 相続放棄の手続きについて詳しくはこちら

遺言書がある場合でも民法909条の2は使えるのか

常に使えないわけではない

この点もよく誤解されますが、遺言書があるから必ず使えない、というわけではありません。

ただし利用できないことがある

一方で、遺言の内容によっては、この制度を使えないことがあります。たとえば、特定の預貯金の帰属先が遺言で明確に定められている場合などは、そもそもその預金が遺産分割の対象になるのかが問題になります。

実務での考え方

遺言書がある場合は、次の点を確認する必要があります。

  • その預金が遺産分割の対象か
  • 遺言執行者がいるか
  • 金融機関がどのような書類提出を求めるか
  • その遺言内容で単独払い戻し制度の利用が認められるか

遺言書がある相続では、制度利用の可否がケースによって変わるため、金融機関や専門家への事前確認が非常に重要です。

→ 公正証書遺言書の作成について詳しくはこちら

民法909条の2を使うときの必要書類

必要書類は金融機関によって異なりますが、一般的には次のような書類の準備が必要になります。

  • 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本等
  • 相続人全員の戸籍謄本等
  • 払い戻しを希望する相続人の印鑑証明書
  • 本人確認書類
  • 金融機関所定の依頼書や届出書

場合によっては、法定相続情報一覧図の写しで一部代替できることもあります。また、兄弟姉妹相続など相続関係が複雑な場合は、追加の戸籍が必要になることもあります。

そのため、窓口に行く前に、必ず金融機関へ必要書類を確認しておくことをおすすめします。

実際に制度を使う流れ

1

相続開始時の残高と法定相続分を確認する

まず、亡くなった時点の預金残高と、自分の法定相続分を確認します。ここを間違えると、払い戻し可能額の見込みもずれてしまいます。

2

払い戻し可能額を計算する

計算式にあてはめて、いくらまで請求できるかを把握します。ただし、最終的には同一金融機関150万円上限がある点を忘れないことが重要です。

3

金融機関へ必要書類を確認する

銀行ごとに必要書類や受付方法が異なります。予約制の窓口対応になっていることもあるため、事前確認が安全です。

4

他の相続人にも事前に伝えておく

法律上の義務ではありませんが、後のトラブル防止のため、事前に他の相続人へ伝えておくことを強くおすすめします。黙って進めると、「勝手に預金を動かした」「使い込みではないか」と疑われやすく、その後の遺産分割協議が難しくなることがあります。

5

使途と記録を残す

払い戻し後は、何に使ったのかを説明できるようにしておくことが大切です。領収書、払込票、振込明細などをきちんと保管しておくと、後日の説明がしやすくなります。

民法909条の2を使うときの主な注意点

注意点1|相続放棄ができなくなる可能性がある

相続放棄を考えている方は、払い戻し後の使い方によっては法定単純承認の問題が生じる可能性があります。迷う場合は、利用前に必ず専門家に相談した方が安全です。

注意点2|親族間トラブルの原因になりやすい

制度上は単独で請求できますが、相続人間の感情的対立は別問題です。法的にできることと、円満に進むことは同じではありません。実務上は、事前共有がとても重要です。

注意点3|遺言書がある場合は個別判断になる

遺言書がある案件では、単独払い戻し制度をそのまま使えるとは限りません。遺言内容、遺言執行者の有無、金融機関の確認事項によって対応が変わります。

注意点4|必要書類が足りないと手続が進まない

「戸籍謄本があれば足りるだろう」と考えて進めると、追加書類を求められて時間がかかることがあります。特に急ぎの支払いがある場合は、早めの確認が大切です。

注意点5|当日すぐ現金化できるとは限らない

制度があっても、金融機関は内容確認を行います。書類不備や確認待ちがあれば、即日払い戻しが難しいこともあります。急ぎの支出がある場合ほど、早めに動くことが重要です。

よくある質問

民法909条の2は誰でも使えますか?

相続人であれば利用の可能性がありますが、実際には法定相続人であることや法定相続分が確認できることが必要です。また、遺言書の有無や金融機関の確認内容によっては、利用できない場合もあります。

民法909条の2で預金を全部引き出せますか?

いいえ、全部は引き出せません。相続開始時の預金残高 × 3分の1 × 法定相続分という計算が基本で、さらに同一金融機関ごとに150万円上限があります。

家庭裁判所に行かなくても使えますか?

はい。民法909条の2の制度自体は、家庭裁判所の判断を経ずに金融機関へ直接請求できる制度です。ただし、150万円を超える必要がある場合などは、家庭裁判所の手続が問題になることがあります。

他の相続人に黙って手続しても大丈夫ですか?

法律上、事前同意が必須というわけではありません。ただし、後で大きなトラブルになることがあるため、実務上は事前に伝えておくことをおすすめします。

相続放棄を考えている場合でも使えますか?

ケースによります。相続財産の処分と評価されると相続放棄に影響する可能性があるため、相続放棄を検討している場合は、利用前に専門家へ相談するべきです。

まとめ|民法909条の2は「使える制度」だが「慎重さ」が必要

民法909条の2は、相続開始後に必要資金を確保するための非常に有用な制度です。特に、葬儀費用、生活費、医療費、相続債務の支払いなど、遺産分割が終わる前にどうしてもお金が必要になる場面では大きな助けになります。

一方で、次の点は必ず押さえておく必要があります。

  • 引き出せる金額には計算ルールがある
  • 同一金融機関ごとに150万円上限がある
  • 後日の遺産分割で調整される
  • 相続放棄との関係は特に注意が必要
  • 遺言書がある場合は個別判断になる
  • 書類不備や説明不足がトラブルの原因になりやすい

「自分はいくら引き出せるのか」「このケースで本当に制度を使ってよいのか」「相続放棄に影響しないか」など、判断に迷う場合は、早めに専門家へ相談することが大切です。

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この記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、個別の事案について法的助言を行うものではありません。具体的な事情によって結論が異なる場合がありますので、実際の手続では専門家へご相談ください。